雀荘の洗礼
友人たちとの身内麻雀に飽いた私は、バイト先への道中にある麻雀荘に目をつけます。
店名は◯ー1、当時人気全盛だった格闘技団体をもじった店名です。
私はバイト帰りにその雀荘を睨みながら、(自転車にまたがりつつ)あの雀荘でおれにの腕を試してやるぜ!と意気込んでいました。
私は友人との身内麻雀ではほとんど負け無しの成績を誇っていて、完全にテングになっていました。
ある日のバイト代支給日、私は出たばかりのバイト代をコンビニで引き落とし、その雀荘を攻めることにしました。
その軍資金は3万、私は雀荘に行ったことがなかったのですが、3万もあれば十分だし、何より自分が雀荘でも負けるわけないと思っていました。
バイト帰りに勇んでその雀荘に着いた私ですが、なかなか店内に入ることができませんでした。
フリー雀荘に通っている皆さんなら私の気持ち分かって頂けるとおもいます。
雀荘というのはっきり言って異空間です。
普通の人なら恐らく一生立ち入ることのない非日常空間。
なんやかんやで私は雀荘の前で小一時間くらい入るか、入るまいかとウロウロしていました。
私は当時17歳になったばかりでしたが、私の敬愛してやまない阿佐田哲也先生が雀荘に入ったのは若干16歳(麻雀放浪記の設定では)私は意を決して雀荘のドアを開くのでした。
- 続きます-
そして雀荘へ…
麻雀のテレビゲームに続き、リアルの麻雀にもハマった私たち。
次の日がバイトだろうがお構い無しに週3日は徹夜で麻雀をしていました。
みんな自然と牌の扱いにもなれ、配牌などもスムーズに行えるようになります。
しかし、私たちはずっとノーレート、一円も賭けずに麻雀をしていました。
一番大きな理由は、溜まり場の長であるMが大のギャンブル嫌いだったこと。
私や、A、Sは安いレートなら賭けても良かったのですが、さすがにM抜きで3人だけ賭けるのもイマイチつまらない。
しょうがなくノーレートで麻雀をしていましたが、私はなんとなく物足りなさを感じつつありました。
確かに麻雀はノーレートでも楽しめる魅力のあるゲームだとは思いますが、それは4人が真剣に打つという条件があればこそ。
4人が配牌から摸打(ツモって切る)を繰り返し、道中相手リーチや、鳴きが入り、やがて相手リーチの危険牌を掴んでしまう。
捨て牌や自分の手牌を見やり、勝負して切るか、育てあげた手牌を崩して降りるか、はたまた危険牌を使いつつ回し打ちを目指すか。
そういった熟慮を4人が4人行い、それが混ざり合っての真剣勝負、それが麻雀の一番の醍醐味だと私は思うのですが、いかんせんノーレートではなかなかそういった真剣勝負にはなりづらいのです。
なんせ当たり牌を振り込もうが、飛びラスを食らおうが、痛くも痒くもない。
自然とみんなダラダラした麻雀になります。
そして誰も上達しない。
メンツも変わるわけではないので、マンネリになる。
いつしか4人で麻雀をすることも少なくなってきました。
私以外の3人はすでに麻雀熱が冷めていましたが、私は逆に麻雀に対しての情熱が燃え上がっていました。
(もっと真剣な勝負がしたい!金を賭けた真剣勝負をして、そしてそんな場で自分が勝ちたい!)
私はある決意をしていました。
バイト先に行く途中に見かける雀荘の看板。
友人たちとの麻雀に飽いた今、私は雀荘に行く決意を固めていました。
麻雀の難しさ
実物の麻雀牌
前回の続きです。
あまりに麻雀牌が高く、手が出せなかった私たち。
今なら楽天やアマゾンで探せば安いものは三千円くらいで買えるでしょうか。
しかし、当時はネットショッピングはまだまだ普及はしていません。
Mも1人でプレイするテレビゲームの麻雀に飽きたのか、新しいソフトと手に入れ今度はそれにハマっていました。
私はまだ麻雀をリアルにやりたいという気持ちがありましたが、牌がなくては仕様がなく諦めつつありました。
そんなある日、いつものようにバイト帰りにMの家でだべっていると、共通の友人A、SのうちAが合流。
程なくしてSが満面の笑みで部屋に入ってきました。
手には小さなカバンのようなものを持っています。
対戦ゲームに夢中のMとAに代わって私が声をかけます。
「お疲れ〜、ってなに持ってんだよ?」
「これ見てみ」
そう言うとSは持ってきた小さなカバンをコタツテーブルに置き、開きます。
「うわぁぁ〜‼︎」
私の叫び声でテレビモニターにかじりついていたMとAが振り返ります。
テーブルの上に開かれたカバンの中身はなんと麻雀牌でした。
Mの、Aも歓声をあげます。
「すげえ!」
「どうしたんだ、これ⁉︎」
Sはみんなの反応を見て満足そうに 「昨日の夜何気なく親父に麻雀牌ってあ る?って聞いたら、爺ちゃんのがあるかもしれないって言うから夜中に物置探したらあったんだよね」
確かに置かれた麻雀牌はかなり年季が入っており、牌の背中は本物の竹でできており、表側は何かの骨のようなものでできています。
点棒も竹でできており、麻雀をするための道具はすべて揃っているようでした。
「早速やろうぜ!今日は徹マーだな!」
私たちは早速見よう見まねで洗牌をはじめます。
ジャラジャラと結構な音量で牌の混ざる音がします。
「良いね〜、麻雀してるって感じがするね〜」
みんな実物の麻雀牌に触れられるのが嬉しくてしょうがないない感じでニヤニヤしています。
ここで問題が発生。
洗牌が終わり牌を積む段階で誰一人まともに積み上げることができないのです。
二列に並べた牌の両端を持ち、一列目に積む。
それだけなのに、まず牌を浮かすことができない、浮かせても積む前にガチャッという音とともに牌が弾け飛ぶ…
「これ難しくね…」
私が言うとMは牌を3個くらいづつ持ち、少しづつ積んでいっています。
私たちもそれにならい、少しづつ積みなんとか牌山が完成。
しかし、またまた問題発生。
始め方がわからないのです。
私たちは誰も実物の麻雀をするにあたっての
ルールがわからないのです。
テレビゲームはボタンを押せば勝手にサイコロが振られ、勝手に親が決まり、勝手に開山が行われ、配牌がされる。
しかも私たちのやっていた麻雀ゲームはサイコロ二度振りのルールだったのでゲームを起動し、確認してもなぜそこから開山するのか意味がわからない。
4人であーだこーだ言いながらやろうとしますが、ここで間違ったルールは覚えたくない。
意を決したようにSが
「おれ古本屋で麻雀の本買ってくらぁ!」
と立ち上がります。
麻雀の本はSに任せ、残った私たちは牌を積む練習をします。
こうして私たちの初めての麻雀はなんとも締まらないスタートを切るのでした。
麻雀牌はどこに?
前回、テレビゲームの麻雀に私とその友人がハマったのは書きました。
しかし、テレビゲームの麻雀は当然1人プレイ専用。
私たちは一局ごとにコントローラーを回してあとの人間は見物しながら、切る牌はこれだ、だの相手の危険牌はこれだ、だのやっていたわけですが、友人のMが
「ていうかさ、おれたち4人いるだろ?普通にリアルの麻雀できるじゃん!」
といいだします。
確かにMの言う通り、私たちは4人いるし、麻雀卓もMの部屋にあるこたつテーブルを代用できそうでした。
しかし…
「麻雀牌ってどこに売ってるんだ?」
その頃ネットショッピングというのはまだまだ浸透はしてなかったと思います。
少なくとも当時私たちは楽天もアマゾンも知りませんでした。
「オモチャ屋にあるべ!」
Mが言います。
確かにジャンルとしては玩具には入るかもしれませんが、なんせ今まで麻雀牌など気にして見たことはありません。
「T、◯◯◯◯の近くにオモチャ屋あったじゃん!明日帰りに見てきてくれよ!」
Mの言う◯◯◯◯と言うのは私のバイト先のファミレスで、確かに近くに老舗のオモチャ屋があります。
次の日私はバイト帰りにそのオモチャ屋に行きました。
店内を見回ると私たちの世代が普段見るテレビゲームのソフトのコーナーの奥、ガラスのショーケースの中に麻雀牌はありました。
しかし、値札を見て私は目を疑いました。
”¥15.800”
確かに値札にはそう書いてあります。
M以外の3人はバイトをしていましたが、それでもその値段は想像以上に高価でした。
その日Mの家に集まり、みんなに値段を報告すると、やはり3人とも麻雀牌がそんなに高価だと思わなかったらしく、Mなどは言いだしっぺのくせに
「そんな高いのやめべー、ゲームで良いよゲームで」
などと言いだす始末。
しかし、私を含めた他の3人も麻雀牌1つにそんな金を出せる気もなく、私たちの麻雀ブームも終わりに向かおうとしていました。
-続きます-
麻雀との出会い2
前回の続きです。
友達のMがおそらく10時間以上ぶっ通しでやり続けていたゲーム「勝負師伝説 哲也」
この作品、もともとは少年マガジンに連載されていた漫画で、雀聖・阿佐田哲也氏をモデルにした雀士哲也が様々なイカサマ技を駆使しながら強敵を倒していくというストーリー。
少年誌としては異例の麻雀を題材とした漫画でしたが、かなりヒットしたようで、この漫画で麻雀を始めた人も少なからずいるのではないでしょうか。
Mがプレイしているのはその漫画のテレビゲーム版。
「M、麻雀なんてできるの?」
「できなかったけど、もう大体覚えたよ」
そういえばMは高校中退とはいえ、中学時代はかなり勉強のできた男でした。
パズルゲームも好きでよくやっていたので、こういうボードゲームの類いは得意なのかもしれません。
私はといえば麻雀をやろうと思えばやれる環境にありましたが(スキー教室のギャンブル大会等で)麻雀というのはかなり複雑なゲームだと勝手に思い込んでいたため、手を出してきませんでした。
「M、大体覚えたって麻雀てそんな簡単に覚えられるもんじゃないだろ?」
「おれもそう思ってたけど、そんな複雑じゃないよ、Tもやってみ」
Mはそういうと私にゲームのコントローラーを手渡しました。
「手牌は勝手に並べてくれるから、牌をツモってくるのも自動。あとはカーソルで捨てる牌を選ぶだけだから」
その後Mの指導を受けながらやってみると、麻雀というのは私が想像していたよりはるかに簡単なゲームでした。
数牌はマンズ、ピンズ、ソーズの3種類でそれぞれ1〜9までの種類があり、あとは白、發、中、東、南、西、北の字牌があり、全ての牌が4枚あるということ。
同じ種類の数牌で1.2.3や2.3.4といった並びや、1.1.1や、7.7.7といったゾロ目を作ればそれが面子となり、字牌は全てゾロ目で面子を作らなければならない。
最終的に面子が4組と雀頭と呼ばれる同じ種類の牌を2つの形になれば良いだけ。
鳴きと呼ばれる、チー、ポン、カンを使えば自力で面子を作らなくても、他の3人の捨てた牌で面子を作れる。
手役もそれぞれに特徴があり、見ればそんなには複雑ではないよう。
何局かやっているうちに私も麻雀の面白さがわかってきました。
配られたバラバラの配牌が摸打(ツモって切る)を繰り返すうちに整ってくる。
14枚が完成し、上がるときの快感。
「麻雀て面白いね!」
「だろ〜‼︎」
そのうちにいつものようにA、Sもバイトを終えて集合します。
2人とも私と同じように麻雀は未経験。
Mが私と同じようにA、Sにも指導していきます。
そのうちにAもSも大体のルールを覚え、2人とも麻雀の面白さがわかったようです。
その後私たち4人は「勝負師伝説 哲也」のゲームをそれこそディスクが擦り切れるほどプレイするのでした。
-続きます-
麻雀との出会い
前回の記事で書いたように、私は学童のスキー教室でギャンブルと出会い、小学生の頃は毎年スキー教室でお菓子を賭けたギャンブル大会に参加してたわけですが、普段はもちろん普通の子どもと同じようにマンガやTVゲームの好きな子どもとして小学校、そして中学校を卒業します。
地元の公立高校に進学した私でしたが、 1年の秋には中退してしまいました。
理由はつまらなかったから。
公立中学校の場合は同じ地区のいろいろな人間が集まります。
信じられないくらい頭の良いやつや、信じられないくらい馬鹿なやつ、勉強はできないけど面白いやつ、スポーツの得意なやつや、ヤンキーや、真面目君。
いろんなやつらが集まっているから楽しいわけです。
それとは対象に私が進学した公立高校は一応大学進学率の高さを売りにしている進学校とはいえ、偏差値で言えば県内公立高校の中の中。
私立でもないからスポーツが得意なやつもそんなにはいない。
つまり県内の平凡中の平凡たちが集まる高校だったわけです。
そんな高校なのに校則は厳しく、閉塞感いっぱいの中私は退学届けを提出していました。
高校を辞めた私はファミレスの厨房のバイトを始めましたが、かなり人見知りの私はバイトの人たちと馴染むこともなく、日々を過ごしいました。
そんなある日バイトの帰りにたまたま中学校の仲の良かった同級生Mと会います。
中学校時代は仲が良かったものの、再会は卒業以来。
「あれ、Tじゃん!平日の昼間になにしてるんだ?」
私は少しバツが悪い感じで、高校を辞めたこと、ファミレスでバイトをしながら暮らしていることを話しました。
するとMは笑いながら「おれもつまんないから辞めちゃったよ」と照れ笑いしながら言いました。
「とりあえずうち上がれよ、AもSも高校辞めて毎日うちに遊びきてるぜ」
確かにMの家は中学校時代からいわゆる溜まり場になっており、AもSも私とMの共通の友人でした。
Mの家の部屋に上がると、テレビ、様々なテレビゲーム、こたつ、ベッド代わりのマットレスと中学校時代のまま。
程なくしてAとSも合流し、再会を 喜びつつみんなでゲームや思い出話をしながらその日はMの家に泊まりました。
Mの親も放任主義というか、特にうるさいことも言わない人だったので、私は次の日から、バイト終わりにはMの家に入り浸り、AやSとともににテレビゲームをする毎日。
私や、A、Sはバイトをしていましたが、Mはぷー太郎(当時ニートという単語はありませんでした)でバイト終わりに3人のうちの誰かが訪問するまで寝ていました。
ある日いつものようにバイト帰りにMの家に上がると、珍しくMが起きていてゲームをしています。
「あれ、起きてるなんて珍しいじゃん、なにやってんの?」
「いやぁ、これ面白くて昨日の夜からずっとやってんだよね」
私のやっているバイトが終わるのが午後2時くらいでしたので、Mの言う昨日の夜が何時かはわかりませんが、ゆうに10時間以上同じゲームをしていることになります。
テレビ画面を見るとプレイしているのは麻雀ゲームでした。
私の顔も振り返らずにプレイしているMの横に転がっているゲームのパッケージのタイトル名は「勝負師伝説 哲也」
この作品に出会って私の人生は大きく変わることになります。
- 続きます-