最初のギャンブル3

前回でチンチロリンにルールを大まかに説明しました。

  私たち新一年生は上級生たちに盆に混ぜてもらい、生まれて初めてのギャンブル参戦と相成るわけです。

チンチロリンの場に入った新一年生は私と当時1番仲の良かったY君の2人。

人数は私たちを含めて6人でした。

  最初は私もY君もルールを覚えるために上級生たちの勝負を眺めていただけでしたが、なんせチンチロリンのルールは至って簡単、サイコロを3こつまんでドンブリに投入するだけ、サイの目の強弱も役も単純で文字通り小学生でも覚えられるわけです。

  そのうち私もY君も少しずつチップ代わりのお菓子を自分の前に出し、参加するようになりました。

なるほど、サイコロをドンブリに投げ入れるとチンチロチンチン…と名称通りの可愛らしい音が響きます。

誰かがサイコロを投げ入れるたびに車座になった6人が一斉にドンブリを覗き込む…サイコロが停止する一瞬の間を置いてのそれぞれの一喜一憂。

  私もY君もビギナーズラックというやつなのか、親を取ることはありませんでしたが(1の目や目無し、ヒフミを出す総負けを出すと親が変わるが、拒否して親を回すこともできる)子側でシゴロや、ゾロ目などを連発し、2人とも結構な数のお菓子を稼いでいました。

1年坊2人にやられてと面白くなかったのか上級生が「おい、T(私)もYも子ばっかりやって逃げてねえで親やれよ親!」

と煽ってきます。

  私は何回かやっているうちに、このチンチロリンというゲーム、絶対に親を取ってはいけないゲームだという認識を強くしていました。

何故ならば、子であれば自分の任意の範囲で賭け、自分の持ちチップ(お菓子)を管理できますが、親となれば子がどんな張りをするかはわからないし、賭けの上限内であれば賭け分の高の制限もできないわけです。

もちろん親で6の目やシゴロ、ゾロ目を出せば子側のチップを総取り、倍もらいできますが、万が一ヒフミでも出そうものなら子側のチップの倍の支払いをしなければいけなくなるまさにハイリスクハイリターンの勝負。

  上級生に煽られた私たち、お互い顔を見合わせるとYが「じゃあおれがやる!」とドンブリとサイコロを引き寄せました。

私は内心(あ〜あ…Yも調子に乗って親やっちゃって馬鹿だな〜…)と思っていました。

なんせ子側でずっとやっていた私たち2人が2人ともチップをかなり増やしているわけです。

すなわち今日の親は不利、しかも上級生たちは負けているため私たちが親を取った場合、場が煮え立ち、張られるベットが大きくなるに決まっています。

  私が思ったとおり上級生たちはYの親でベット上限であるお菓子3つを押しだし、私も上級生たちにならってお菓子3つを張りますした。

場に張られたお菓子は計15個、ヒフミでも出そうものなら子側でチョコチョコ貯めたYお菓子が吹き飛ぶ計算になりそうです。

 今まで浮かれながらあそんでいたYもさすがに緊張の面持ちで第1投。

チンチロチンチン…とサイコロが転がり停止。

目は1.2.4の目無し。

第2投目。

目は1.2.6のまたもや目無し。

上級生たちも「ヒフミが出たがってる目だな〜!」と盛り上がります。

私も「こりゃ良くても目無しだなぁ」と笑ってYを見ます。

Yはサイコロを持ち両手を擦り合わせながら、神頼みのような格好で一言「頼む!」と叫びながら最後の一投をドンブリに放ちました。

その瞬間6人が一斉にドンブリを覗き込みます。

停止目はなんと4.5.6!

「うわ、マジかよ!」

「シゴロだぁ⁉︎」

の声に混じりYの「よっしゃあああ!」という雄叫び。

Yはこの一番で張られた15個のお菓子の倍の30個を得たわけです。

 その後もYは親を続け、6の目やゾロ目のオンパレード、気を弱くしたみんなの張りが小さくなったときに目無しで親を落とすという理想的な形で親を終えます。

 その後私にも親が廻ってきましたが、すでに親をやる持ちチップもなくYの一人勝ちでその日は終わりました。

 私はこの夜にギャンブルというものの怖さ、また楽しさを味わった気がします。

 と、まぁ私のギャンブル人生の幕開けはこの夜、平凡な成績で始まったのでした。